天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「ケケケケケ!」

不気味な笑い声を発しながら、空から数十匹の翼を持つ魔物が、降りてくる。


さっきまで、赤星とクラークの死闘が行われていた場所。

カラス天狗に似た魔物は、ただ1人その場で、崩れ落ちている舞子を見つけ、

「魔力を失った赤星浩一を、討伐しに来たが…」

舌なめずりをし、

「まさか…人間の女に出会うとはな」

同じ顔のカラス天狗が頷く。

「それも〜混ざっていない純潔の人間の女だ」

カラス天狗達は、楽しそうに笑い合うと、舞子に近づいていく。

「何があったのかな?お嬢ちゃん」

「こんなところで、1人いたら〜」

「恐ろしい魔物に〜」

「殺されるよお〜!」



風が吹いた。

「え?」

その瞬間、前にいた三匹のカラス天狗の首が飛んだ。

「な!何だ!」

後ろにいたカラス天狗達は、後退り…震えだした。

「こ、こ、この魔力は…」

「さっきまで、感じなかったのに…」

異様な魔力を感じ、慌てて飛び上がろうとした残りのカラス天狗の翼が、一瞬にして切り裂かれた。

「ヒイイイイ」

悲鳴を上げ、尻餅をついたカラス天狗達に向けて、ゆっくりと、舞子は振り返った。

その姿に、カラス天狗達は言葉を失う。

氷のように冷たいガラスのような瞳に、透き通る肌。

姿形は、人間だが…そこから受ける圧倒的な雰囲気は、人間ではなかった。暖かさの欠片もない…氷の塊。

それは、炎の騎士団長リンネと対極にある姿だった。

氷の魔女。

はだけた胸元から、2つの乳房が見えた。そこに張り付けた二枚のブラックカード。

舞子は、女を捨てた。

勿論、人も。

それは、この地にいる赤星浩一を殺す為。


「クラーク…」

人として、最後に流す涙が、氷の魔女となった舞子の頬を溶かした。

これが、最後の暖かさだから。


「魔神…!」

カラス天狗達は、自分達よりも、数段上の魔力に震え…いや、それが恐れからだけではなかった。全身が、凍り付いていたのだ。


舞子から漂う冷気は、

赤星と不動との戦いでできた……まだ熱いマグマの湖さえ、凍らせていった。
< 620 / 1,566 >

この作品をシェア

pagetop