天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
夜が熱かった。

暑いじゃない…熱いのだ。

宮嶋の奇行を見てから、千秋の全身は燃えていた。興奮状態というよりも…疑問と、何とも言えない怒りが…やり場のない怒りが、全身を駆け巡っていた。


人ではない身になり、変化が不安定のまま…落ち着いてしまった千秋は、

進化の未熟児とも言える存在だった。

安定した者達よりも、寿命が短いというよりも…いつ、体を構成する遺伝子が崩壊しても、おかしくない状態であった。

山根に仕える者は、宮嶋以外すべて、安定していない者ばかりだった。

だからこそ…千秋達は実行部隊に入ったのだ。

いつ果てるかわからない命なら…未来の為に、使おうと。


(しかし…あれは…)

実行部隊の隠れ家になっている病院の特別病棟の一室で、ベットに横になっている千秋は、親指を噛み締めた。

人の優れているところは、倫理観であり…道徳観であると思っていた千秋は、

人より進化した存在なら、さらに…倫理観や道徳観を深く守るべきだと考えていた。

(食物連鎖のトップに立ったからといって…無駄に採取していいのか?)


人を食べる。


千秋は顔をしかめ、

(そのような者が…すべての生き物の頂点に立てるのか……?)


山根の言う意味もわかる。

豚を殺すのに、いちいち考えてられないと…。

(あたしの考えは…鯨を守る…あの集団と同じなのか?)

同じ哺乳類。

しかし、千秋達は…哺乳類なのだろうか……。

(いや……鯨とかと違う……。人とは、意志の疎通ができる。あたし達と思考が同じだ…)


千秋は親指を離すと、天井に手をかざした。

まだ…人間と変わらない。


(あたしは…どれくらい…人を殺したのだろうか……)






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