天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
とぼとぼと…霧の中を歩くように不安げに…浅田仁志は、歩いていた。

前までいた病院と変わらない…何もない…ただ同じ色の壁が、左右に続くだけの廊下を、仁志は歩いていた。

綺麗で、清潔感が溢れている廊下に…なぜ落ち着かないのか。

それは、この場所がそれ程…気を付けなければ、いけない場所であることを意味していた。

病院なら…命。

そして、ここもまた…ある意味…命であった。


原子力発電所。

石油の高騰になり…次世代のエネルギーを確保しなければならなかったが、

人はまだ新しいエネルギーを確保できていない。満足には。


火力発電とは、比べものにならないほどのエネルギーを、作り出す…原子力。


しかし、皮肉ではないか。

唯一の被爆国である…この国が、原子力に頼っているのだから。



仁志はできるだけ、ゆっくりと職場に向かっていた。

起動している数ヶ所の原子力発電所に、進化した者達を送り込むという作戦は、さすがに…難しいかった。

だけど、その中の一ヶ所の責任者が、進化した者であった為に…彼の口利きで、数人が働けるようになっていた。

仁志は、その中の一人だ。


なぜ…原子力発電所で働くのか。


その理由は、知らされていなかったが…仁志も馬鹿じゃない。

ある程度は、予想できていた。

仁志の脳裏に…彼を迎えに来た時の山根達の凶行が、よみがえった。

次々に、仁志の仕事仲間を殺していく…山根達。


そんな彼らがやることは…予測はつく。

だけど…それは、絶対にやってはいけなかった。


彼らは…この原子力発電所を、故意に破壊したいのだ。

本当は、国内すべての。

もし…そうなれば…この世界は、致命的ダメージを負うだろう。

たった一ヶ所だとしても…。

毎日働きながら、仁志はずっと憂鬱だった。

< 970 / 1,566 >

この作品をシェア

pagetop