天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「そんな陰気な顔をするなよ」

後ろから、歩いてきた田中治朗が、仁志の肩を叩いた。

「これが、終わったら…俺達は、ゆっくりと過ごせるんだから…」

坊主に眼鏡という風貌の田中は、仁志に笑いかけ、

「俺達のような…人にこき使われて、損ばかりしていた者は……」

田中は、突然目を細め、

「人がいなくならないかぎり…幸せには、なれないのだから」

そして、何かを決意するように、深く頷いた。



「だ、だけど…もし!」 

仁志が、口にしょうとしたことを、田中は理解していた。

「大丈夫だ!大地が汚れても、女神がなおしてくれるよ」

だから心配するなと、もう一度仁志の肩を叩くと、

田中は、早足で仕事場へと向かった。

仕事と言っても、ほとんどは、コンピューターがやってくれている。 

システムのチェックと、おかしな部分があったら、補修するくらいだ。

扱っているものが、扱っているものだけに……警備員は多かったが……時間をかけて、

進化した者に、入れ代わっていった。

顔の皮と、指紋だけを採取されて…。

仁志の前から、警備員が来て、すれ違ったが……この人も、もう中身は別だ。

仁志達以外は、全員が生体兵器を埋め込まれていた。

自らの能力に添った兵器。

少しぞっとした仁志は、先程の田中の言葉を思い出していた。



「女神…」


仁志も会ったことは、なかった。


女神が、この地に光臨した時…作戦は始まる。


人を滅ぼす作戦が…。


その日はもう…近くまで来ていた。


(僕には…愚かとしか思えない)

歴史が教える…今までの人類の愚かな行為の数々。

しかし、人は学ばない。


また繰り返すのか。

今度は…人でなくなったものによって…。




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