天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「いらっしゃいませ」

勢い良く開いた扉が、普通より、うるさく鈴を鳴らした。

そして、バタンと音を立てて閉まった扉。

マスターが経営する喫茶店に入ってきたのは、綾子だった。


綾子の姿を認め、店にいたお客が全員立ち上がり、頭を下げた。

カウンターの中で、マスターも頭を下げていた。

「ごきげんよう……我等が女神よ」

マスターの言葉に、鼻を鳴らした綾子に、コーヒーを出そうとしたが、

「いらないわ」

綾子は断った。

そして、カウンターにも座らずに、綾子はじっとマスターを見上げると……

突然、カウンターを叩いた。

「あなたの力で…あたしの記憶を消して!あたしから、家族の記憶を!」


突然の綾子の言葉にも、マスターは動じることなく、いつもの冷静な口調で、話しだした。


「それは…できません…」
「なぜだ!」

間髪いれずに、綾子はきいた。

「私の力は…あなた様に通用しません。それに…」

マスターは、頭を下げ、

「あなた様の記憶は…我らの武器でありますれば……。赤星浩一を、排除する為にも……あなた様の記憶を消す訳には、いきません」

「あたしは…!」

綾子はカウンターの上で、拳を握り締めながら、マスターを睨み、

「赤星浩一は、殺せる!だけど…」
「女神よ…」

マスターは綾子の言葉を、意図的に止めた。

一瞬、周りのお客を確認してから…マスターは笑顔を、綾子に向けた。

「赤星浩一は、あなた様でないと、排除できません…。他の人間どもは勝手に、滅びましょう。何ならば…」

「ならぬ!」

綾子の両目が赤く光り、マスターの全身を射ぬいた。

マスターの体に、衝撃が走る。

少しふらつくマスター。

綾子は、そのままマスターを睨み続けた。

「…わ、わかりました…」

マスターは、綾子の視線から逃れる為に、深々と頭を下げ…自らの視線を外した。



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