天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「そ、そんなことは…」

美奈子は何とか、体を動かし、マスターの方に振り向いた。

「女神……」

マスターは、足を止め、

「あなたが目覚めないのは……まだ、人を信じているからかもしれませんね」

マスターも振り返り、

「あなたの思いは、素晴らしい。私もまた…昔は…」

マスターは悲しい目で、美奈子を見つめながら、話そうとした。


その時、 


マスターの死角から、次元刀を突き出した神野が、飛び込んできた。

「!?」

それは、美奈子も予想しなかったことだった。 


次元刀が、マスターの首筋に刺さると思われた瞬間、

マスターは右手を上げ、次元刀を受けとめた。

次元刀は、マスターの手の平を貫通した。

マスターはそれでも、視線を美奈子から外さずに、

「しかし、人は希望を裏切る存在です。運命のせいにして」

マスターが軽く腕を振るうと、

「何!?」

神野は吹っ飛んだ。

次元刀が、突き刺さっていたが、

マスターは平然と、手から抜くと、左手で刃を握り締め、美奈子に近付き、差し出した。

「一つだけ……私が、本人からきいた話をしましょう」

美奈子は、次元刀を受け取ることに躊躇う。 

そんな美奈子に微笑むと、

「毎日いじめられていた少年が、救われたのは……いじめていた人達を、殺した時だけですよ」

「そ、そんなことは…」


「いじめた者は、理解できないし…いじめられなかった者もまた…理解できません。いじめられた当事者でないと…」

美奈子が、受け取らないとわかると、

マスターは、歩道に倒れている神野に向けて、剣を投げた。

地面に叩きつけられた衝撃で、なかなか動けない神野の足スレスレに、次元刀は突き刺さった。

「それ程……苦しいのですよ」

そう言うと、マスターは美奈子に背を向けて、ゆっくりと歩きだした。


愕然としてしまった美奈子は、マスターの背中が見えなくなるまで、見送ってしまった。


見えなくなり…崩れ落ちそうになる体を、何とか踏張り、

美奈子は、マスターの消えた方向を、気丈に睨み付けた。

「そんなこと……正しい訳がないわ!」





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