天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
11時38分。


千秋は、倒れている仁志の体を揺すり…何とか意識を呼び起こした。

仁志は、目醒めていないとはいえ…人間の体とは、違う。普通よりは、頑丈だ。

すぐに、意識を取り戻した仁志は、化け物となった千秋に、少し驚いたが…

仁志を見る千秋の瞳の優しさに気付き、すぐに落ち着いた。

首を確認し、ほっと胸を撫で下ろした仁志は、数メートル先に転がる山根の死体に気付き、顔を引き締めた。


仁志の視線の先に気付いた千秋は、仁志に向かって言った。

「ここは…あたしが、守るから…お前は、逃げろ」

千秋の言葉に、仁志は驚いた。

「……でも…」

千秋はフッと笑い、自分の左腕を見つめると、

「あたしは…人がいる世界に戻れない…。それに…」

千秋は視線を、仁志に移し、

「あたしは…お前のような者の為に、世界を変えたかった。だけど……」

千秋は微笑み、

「あたし達では、変えれなかった。だから、ここを去り…お前のような者が、新たな世界をつくれ…」


仁志の目が…その奥の思考が、冷静に…千秋の状態を判断した。そして、その願いも。


「お、お願いします」

仁志は千秋に向かって、深々と頭を下げた。

数秒、頭を下げた後、仁志は走りだした。


これ以上話しても…千秋の時間を削るだけだ。



千秋は、走り去る仁志の背中を見つめながら…原子炉が、見える窓側の壁にもたれた。

(この命…消えるまで…)

千秋は、最後まで戦う覚悟を決めた。






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