ノラ猫
 
「凛ちゃん!」

「あ……ゆう、すけさん……」


案内された手術室前。

そこには智紀を通して紹介されたことのある、雄介さんが先に来ていた。
おじさんが、あたしから手を引くための記事を書いてくれた、編集者の方でもある。


「あのっ……智紀はっ……」
「今、手術中。
 でも結構出血がひどいって……」
「そんな……」


カタカタと、体中が震えた。

智紀に何かがあったらと思うと、どうしようもないほど怖くなる。


電話で言われた「何者かに刺された」って……。

いったい誰が……。



(やっと……見つけた……)



「――!?」



ふいに頭をよぎった、一人の人物。


(痛い目見せたほうがいい?)


何度も言われた、その言葉。
言われてみれば、おじさんはスクープ記事によって身を引いてくれたけど、にいさんからは何もアクションがなかった。


きっと、智紀を刺したのは……間違いなくアイツだ。
 

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