ノラ猫
 
「智紀!!」


慌てて枕元まで詰め寄り、智紀の顔を見下ろした。

ゆっくりと向けられた視線。
サファイア色の瞳があたしを捉える。


「なんだよ……泣いて、んのか……」
「だ…って……」
「泣き虫」


泣いているあたしを見て、彼は笑った。

安堵から、余計に涙があふれ出てくる。


「ごめんな……バカ、してっ……」
「ううんっ……。あたしのせいでっ……ごめんなさいっ……」
「凛のせいじゃねぇだろ。バーカ」


必死に謝るあたしを、彼は笑って受け流している。


「い…ってぇなー……。ムカつく、なぁ……」
「智紀……」
「しかも……なんで、だよ……。
 せっかく凛の顔、見れたって…言うのに……。視界がかす、む……」


智紀の声も、かすれていった。

ゆらゆらと瞳が揺れ、息があがっていく。


「もうしゃべんないで。今、先生呼ぶからっ」
「り、ん……」


急いでナースコールを押して、先生を呼んだ。
その間も、智紀はあたしを見つめ、優しく名前を呼ぶ。


「だいじょう、ぶ……だから」
「うん……」
「……来月、楽しみ…だな」
「うんっ……」


来月、あたしと智紀は結婚する。

だから……
これからも明るい未来が待ってる。
 

「だ、からっ………ぅっ……」
「智紀!!」


呼吸が最大に乱れ、心拍装置の音も乱れていく。



「智紀ぃっ!!」



嫌だっ……
お願い、たすけて……。



智紀っ……!!!


 
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