ノラ猫
 





あれから、もうすぐ一週間が経とうとしている。

智紀は瞼を閉ざしたまま、起きることはない。


このままいくと、本当に昏睡状態になってしまうと先生も言っている。



「智紀、来たよ」


面会時間になると、必ず病室へ訪れていた。

そして面会終了時間ギリギリまで、目を覚まさない智紀の傍にい続ける。


「今日、やっとにいさん、捕まったって。
 これで安心だよ」


あの後、すぐに警察の人が事情聴取に来た。

犯人がにいさんであると確信していたあたしは、今までのことをちゃんと話し、にいさんを捕まえるようお願いをした。
にいさんはすでに行方をくらましていて、なかなか捕まえることは出来なかったけど、ようやく身元を確保したと知らせを受けた。

体内からは薬物の反応もあったらしい。

それにより、神楽坂インターナショナルのことも、大きくニュースに取り上げられていた。


「結婚指輪、結局決まってないね」


事件が起きる前、一緒に見に行くと約束した。
だけどいまだに、その約束は果たせてない。


「間に合うかな……。
 籍、来月入れてくれるんだよね」


その言葉にすら、返事は返ってこなかった。
 
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