ノラ猫
 
二人で診察が終わるのを待っていると、ようやく病室から先生が出てきた。


「もう大丈夫ですよ。
 言葉も話せますし、他も異常ありません」

「っ…ありがとうございます」


深く頭を下げて、ずっと担当してくれていた先生にお礼を言った。

すぐに病室へと足を踏み出し、
まだ上半身を起こしたままの智紀を見つめる。


久しぶりに起き上がった智紀を見たせいか、心臓がトクトクと高鳴る。

隣で雄介さんが先へ踏み出し、智紀のもとへ歩み寄った。


「………よお」


雄介さんの姿を見て、智紀はバツが悪そうに微笑んだ。


「心配かけさせやがって……」
「わりぃな」


久々に聞いた智紀の声。
いつもの声よりも少しかすれているけど、あたしの大好きな声だ。


「凛ちゃんも。いつまでそんなとこ、突っ立ってんの?」
「あ……」


一向に智紀の傍へ行かないあたしに、雄介さんが笑って促した。


なんだか緊張する。
本当は早く近寄って、その肌に触れたいのに……。


「凛……?」


智紀があたしの名前を呼んだ。

不思議だ。
ただの自分の名前だけなのに、こんなにも特別に感じるなんて……。


「とも……」





「ごめん。

 ……誰?」





だけどそれは、
あまりにも残酷な結末でした。

 
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