ノラ猫
「ほら」
「何?」
「ココア」
渡された、湯気の立つマグカップ。
甘いにおいを漂わせ、見慣れないそれに戸惑った。
「ココア飲むの、何年振りだろう……」
「苦手?」
「ううん……。好きだった」
「……そう」
小さい頃、よく飲んでいたココア。
お母さんの入れてくれる甘いココアが大好きだった。
よく、なくなってしまうのが嫌で、半分以上飲むとちびちびゆっくり飲んで、下のほうにココアの粉がいっぱい溜まっちゃっていて……
「どうかした?」
「ううん。なんでもない」
感傷的になってしまいそうな自分を、ハッと我に返させた。
過去の事なんて考えちゃいけない。
とくに幸せだったときのことなんて……。
「智紀っていくつなの?」
「いくつに見える?」
「……24」
「それは嬉しい回答」
「え、じゃあもっと上?」
「そー。44」
「嘘!」
「嘘」
無意味な冗談。
イラッとしたからかいに思わず睨んだら、智紀は嬉しそうに笑ってる。
「一応、人間っぽいとこもあるのな」
「何それ……」
「時々、人形みたいな顔してるからお前」
「……」
それを聞いて、何も返せなかった。