ノラ猫
18章 映らない瞳
 
「今までありがとうございました」


お世話になった病棟のナースセンターに立ち寄り、お礼を言って病院を出た。

今日はついに退院の日。
入院してから、一か月弱。

まだ傷口は残っているけど、これからは通院レベルにまで治った。


結局昨日、凛が俺の前から去ってから、追いかけることは出来なかった。

手術で不安におびえている綾香を、放っておくことが出来なかったんだ。


残ったのは腑に落ちない心。
凛を追いかけなかったことの後悔。


だけど今の俺が、凛を追いかけたところでどうだって言うんだ……?

何も覚えていないくせに……
追いかけたって残酷なだけ。


あと少し……
もう少しだけ思い出したら……。



「智紀!!」


病院のエントランスまで下りたところで、誰かに声をかけられた。

顔を上げると、息を切らした雄介がいる。


「どうした?もしかして迎えに来てくれた?」


雄介には、今日が退院ということは教えていた。
だけどまさか、仕事がある今日、退院を迎えに来るとは思ってもいなかった。


「何呑気なこと言ってんだよっ……。
 凛ちゃんがっ……」

「凛……?」



「凛ちゃんがいなくなったかもしんねぇんだよ!!」

 
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