ノラ猫
 
「やっと……見つけた……」

「―――っ!?」



言葉を失う瞬間があると、この時初めて知った。


目の前の男は、あたしを見て妖しく微笑んだ。

右の口角だけ釣り上げられた微笑み。
目尻を下げ、細めた瞼……。


カタカタと体が震え、
全身が逃げろと叫んでる。

それでもあたしの足は、鉛のように重くなって動かない。



「会いたかった……凛」


「………にい…さん」




悪夢からは永遠に逃れられない。
 
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