うそつきは恋のはじまり



とりあえず、と言われたままに建物の中へ入る。中高生のクラスはもう授業が始まることもあって、広いエントランスにあるのは俺と七恵の姿だけ。



「何か飲む?体冷えたでしょ」

「えっ、あ、うん……」



壁際の自販機でホットの缶コーヒーを二つ買い、ひとつを七恵に手渡すと、その小さな両手は暖をとるようにぎゅっとそれを握りしめた。



「ありがとう、いただきます」

「どういたしまして」



そして近くのベンチに座る七恵に続くように、俺も座る。



「……俺も、昨日はごめん」

「え?」

「いろいろと、言葉が足らなすぎた」



七恵の真っ直ぐさを見習って、俺も真っ直ぐ言ってみよう。足らなすぎた言葉を補いながら、全て。



「……昨日行きあった人、美紅ちゃんっていうんだけど。父親の妹で、結婚するまで実家に住んでたから家族同然なの」

「お父さんの妹……随分歳離れてるんだね?」

「若く見えるけどあの人、38だよ」

「さ、38!?」



自分と同じか少し下かと思っていたのだろう、七恵は驚き衝撃的といった顔をする。



「子供の頃からずっと面倒見ててくれた人でさ、俺もすごい懐いてて、もう一人の母親みたいなものなんだよね」

「母親……」

「そう。だからこそ、あの人に見られるのが恥ずかしかったの。七恵でいえば、七恵のお父さんの前で手つないでるようなもの」

「確かにそれは恥ずかしいかも……」



思わず納得する彼女に、つい笑ってしまう。

また、コロコロ変わるその顔がかわいい。見ていて飽きなくて、好きだと想う。


< 157 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop