重なり合う、ふたつの傷


月明かりが窓越しにこちらを覗くかのようにぼんやりとリビングを浮かび上がらせている。

それは、天野くんがつけた蛍光灯の明かりと同時に姿を消した。

そして、ナチュラルトーンのリビングがはっきりと私の目に映った。



「夕飯は?」


「まだ食べてない」


「死ぬ前に好きなもの思う存分食おうとか思わなかったの?」


「思わなかった。もし天野くんが明日までの命だとしたら、なにが食べたい?」


「チョコレート。板じゃなくて、ひとつ三百円位するやつな。玉置は?」


「うーん」

考えている間に、私のお腹がグーと鳴った。

「今、鳴ったよな」

「えっ」

恥ずかしくて頭から蒸気が上がりそう。


セミロングの髪を左手で撫でる。


私は緊張したり動揺したりすると、気づかぬうちに左手で髪を触っている、らしい。


ルミにそう言われた事がある。




< 24 / 209 >

この作品をシェア

pagetop