重なり合う、ふたつの傷


お父さんと食べる夕ご飯。


せっかく食べてくれる人がいるのに、手抜きをしてしまった。


スーパーで買ってきたアジフライと筑前煮、厚焼き卵。私が作ったのは豆腐とわかめのお味噌汁だけ。


しかもソースがなかった……。


この前、コロッケを揚げた時に使ってしまったのだ。そのコロッケも結局一人で食べたのだけど。


「ごめんね、お父さん。ソース切らしてた」


「いやいいよ」


仕方なくアジフライに醤油をかけた。


「お母さん、醤油派だったよね……」


お母さんがいる時は、お父さんと二人でご飯を食べたいと何度も思っていたのに、こうなってみるとお母さんの事が心配で食が進まない。


運悪くアジフライの小さな骨が喉に刺さった。


痛いなと思ってご飯を飲み込んだ。


それでも取れなかった。


だけど、お味噌汁の豆腐がそれを私の胃袋へと送り込んだ。


私は自分が作ったお味噌汁に救われた。



物事は想定範囲を超えて、悪くなったり良くなったりする。


一生解けないパズルのようだ。


今日もお母さんは帰ってこなかった……。





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