じゃあなんでキスしたんですか?


「うーんと、外に行くこともあるけど、買ってきたお弁当を食べてることが多いかも」

「よかったぁ。じゃあ明日つくるからさ、ミヤちゃん渡してくれない?」

「えっ!」

「あ、ちゃんとミヤちゃんのぶんも作るから」
 
可愛らしくウインクをして、マイは両手を合わせる。

「ね、おねがーい」

「でも……」
 
会社で上司にお弁当を渡すって、だいぶハードルが高いのだけど。
 
後ろ向きなわたしを引き寄せる勢いで、マイは妹の武器を使う。

「一回だけだから、ね、ミヤちゃんお願い!」
 
大きな瞳を潤ませて、いまにも泣きそうな顔をする。わたしは昔からこの顔に弱い。
 
ミヤちゃんのぶんのお菓子ちょうだいとか、宿題手伝ってなどという可愛い事柄から、外泊したいからアリバイに使わせてとか、お金貸してとかいうわりと重大なお願い事まで。

瞳をうるませてお願いされると、たいてい断ることができないのだ。

「わかった……でも、本当に一回だけだよ?」

「やったぁ! ありがとうミヤちゃん!」
 
そうやってうれしそうに喜ばれると、面倒なお願い事だって叶えてあげたくなってしまう。
 
姉なんて、絶対に損な立場だ。どうしたって妹には敵わないのだから。

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