㈱恋人屋 TWICE!
「この仕事を始めて二年ほど経った時、結婚詐欺の実態について取材することになりました。もちろん、最初の頃は真面目に取材をしていたのですが、恥ずかしい話、お金を儲ける方法としての効率のよさに感心してしまったんです。そして…結婚詐欺を始めてしまいました。」

そんな話、聞きたくない。

「それから一年後、あの人に誘われたんです。もっと組織的に騙さないかって。」
「組織的に?」
「お互いがお互いのアリバイを作るんですよ。例えば僕が詐欺をする場合、テレビに出ていない時間帯ですることになるわけです。ですがそれだと時間がないので、移動に使う車の運転手や、番組の撮影スタッフの中にメンバーを忍ばせておくんです。すると時間に余裕ができて、詐欺もしやすくなります。」
「…それで…?」

話を聞くのが、正直言って怖かった。

一秒でも早く、この場を去りたかった。

そんなことまでしていた男の血を、私が受け継いでいるのが腹立たしくてしょうがなかった。

それに、その血を継ぐ人間がまた産まれようとしている。かわいそうで、いてもたってもいられなかった。

「…その作戦を始めてみたのですが、今度は抜け出せなくなってしまって…。詐欺をやめたいと言い出したら、あの人は世間にそれを公表すると脅してきて…。」

私は、何も言わずにその場から走り去った。

走って、走って、走って。行き先も決めずに、走った。

だけど、気がつけば私は、菜月くんの傍にいた。

「…菜月くんっ…!」

やっぱり、菜月くんの傍にいると安心できる。私が抱きしめると、菜月くんはその腕を私の背中に回してくれた。

その数日後、明也さんは自首し、菜月くんは退院した。
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