【短編】ドーナツ
ちょっと下がった目尻。

左目の下に小さな泣きぼくろ。


どうしてこんなにキレイなのに、ちゃんと男子の顔なんだろう。


「例えばさ」


目の前の顔に見とれていると、手に持ったドーナツを見ながら彼が口を開いた。


「例えば、今みたいに半分ずつ持ってるとするじゃん」


ぽつりぽつりと、優しく語りかけるように。


「だけど半分だけじゃ腹はいっぱいにならない」

「うん」

「一個食わないとだめなんだ」

「うん」

「そのままじゃ、腹が減りすぎて死ぬ」

「うん?そうなんだ」

「だから、腹ペコで今にも死にそうな奴は、残りの半分を探す」

「何の話?欲しいの?じゃあこれもあげるよ」


あたしは持っていた自分の分のドーナツを彼の前に差し出した。


彼はそれをちらりと見たかと思うと、またすぐに目をそらす。


「それじゃだめなんだ。これで一つになっても、腹が減ってるやつは二人だろ?」

「そうだけど、あたしだったら自分のをあげるけどな。自分はお腹が減ってても」


「俺は、相手が腹減ってるのを知ってるのに黙ってもらうことはできないし、自分が死にそうなのに相手にあげることもできない」


「だから、何の話?」


自分のドーナツから顔をあげると、あたしを見ていた彼と、一瞬だけ、目が合った。


彼は口元を緩めて少し微笑む。


まるで、小さな子どもを見る時のような、優しい顔だった。


.
< 7 / 8 >

この作品をシェア

pagetop