コーヒーを一杯


今日子が小学校三年のときだった。

「今からそんなにやらせなくてもいいだろう。だいたい、今日子がやりたいって言ってるのか?」

子供とまともに向き合うことのない旦那は、私が塾や習い事の話をしても、まともに取り合ってはくれなかった。
時間をかけて作った夕食もかき込むようにしてお腹におさめて、憮然とした態度で私の目も見ない。

「だって、お隣の澤田さんちの夕美ちゃんも、同じクラスの美紀ちゃんも。みんな塾だけじゃなくて、ピアノや舞踊なんてのも習ったりしているのよ。今日子だけ、何もさせないわけにはいかないじゃないの」
「今日子だってピアノを習ってるじゃないか。だいたい、そんなに今日子に色々やらせてお前はどうするつもりなんだよ」

深夜遅くに帰ってきた旦那は、それだけ言うと夕食を短時間で食べ終え直ぐに席から立ち上がり、バスルームへ行ってしまう。
結局、その後の話は続かないまま、私は汚れた食器を薄暗いキッチンで一人せっせと洗った。



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