たかしと父さん
最後に30代
娘にも適当な字を当てて「さら」と名付けた僕は、ちょくちょく実家の母の助けを借りて一人娘を育て始めた。そのころになると僕はいろいろなことに気づき始めた。なぜ、義父の名前も「たかし」だったのかとか、僕と義父が余りにも似た人生を歩んだ理由、そして母親のさらと娘のさらが同じ病気を抱えて生まれてきた理由もだ。僕の姉が家を出ると、僕の両親は家を手離して僕のアパートの近くにやはりアパートを借りて住み始めた。僕の両親がいなくなった後にはまた別の「たかしくん」が住んでいるのだろうか?お義父さんがもし、この場所にいたら、幾らでも聞きたいことがあるが、いなくて楽なことの方が多い。何より、娘はどんどん母親に似ていくし、私はどんどんあの日見た篠宮父に近づいている気がするからだ。きっと娘が15歳になったら、どこの馬の骨とも分からない平凡極まりない「たかしくん」と出会うのだろう。その証拠に僕のスマートフォンは高校生のあの日から一回も機種変更しないでここまで来ている。今が何年か考えたこともない。僕はどんどん年老いていくのに街は・・・時代は止まっているようだ。次の「さらとたかし」を待っているように。これはすごく異常なことを書いてるようで、さほど異常でもない。テレビの中には何年たっても変化しないものがいくらでもある。何度でも小学5年生を続けるアニメや何十年たっても寿命が来ないCMキャラクターの犬まで。もしこの街がそうした舞台装置だと考えれば全てのことに説明がつく。虚構か現実かを考える必要はないんだ。また、僕とお義父さんが全く同じ人間であるかどうかも考える必要はない。現に僕には生まれてこれまでの記憶があって街の風景とは裏腹に、僕は歳を取ってるんだから。お義父さんからはたまに身勝手な葉書が来る程度だけど、だいぶ離れた篠宮の実家の方々は父一人、娘一人の僕らのために何かとよくしてくれる。もしかするとお義父さんはそこにはちょいちょい顔を出してるのかもしれない。さらが中学校3年になるといよいよ僕は老けてきた。仕方がない、もう33歳になるんだから。僕と同じ年でまだ結婚してないやつはいくらでもいたけど、こちとら、多感な中学生の娘相手に毎日戦っているんだ。さらの主治医は「病院とアパートから近い学校」を勧めてきた。拒む理由はない。さらが受験に病院の診断書を持って学校へ行くと、予め連絡が入っていたのか保健室を任されている女性が応対した。

「お話、病院から伺っています」

僕は笑い出しそうだった。昔、僕はこの人を心の中でババア呼ばわりしていた気がする。必死で笑いをこらえてデカイ封書を渡すと、「娘のことをよろしくお願いします」と言った。

「失礼ですが、お嬢様のお母様も・・・?」

そんなことはどこにも書いていないのだが、僕はすんなり認めた。

「そうですか、私の過去の研究テーマだったので・・・いつかお話聞かせていただいてもよろしいですか?お辛いかもしれませんが・・・」

僕は快諾すると学校を後にした。後は皆さんご存知の通りだ。娘のさらはよりによってあんな平凡そうな男を見つけてあっという間に恋に落ちた。笑ってしまうぐらいだった。一度だけ娘に「たかしくん」を好きになった理由を聞いてみた。

「・・・ちょっと言い辛い。」

意を決して訊いてみた。

「もしかして・・・お父さんと同じ名前だからか?」

娘は盛大にパスタを噴いた。

「ばっかじゃないの!?」

この反応は本当に違うようだ。さらば娘よ。




ありがとう、愛してるよ。
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