君の名を呼んで
時間は有効に使え
それから何日か経って。
私はだいぶ朔のマネージャーとしてのペースを掴みつつあった。


その日は朔のドラマ撮りが予定よりかなり早く終わって、私は空いた時間に資料を取りに行こうと会社へ戻ってきた。
彼のてんこ盛りスケジュールのおかげで、朔の送迎と現場を行ったりきたりしていたから、なんだか久しぶりの会社。

「ん~と、あれも持っていこうかな」

資料室の奥で棚を見上げていたら、“ガチャ”とドアが開く音がして、誰かが入ってくる。
私が居る場所は結構奥で、そのまま入り口は見えない。ということは、向こうからも然り。

「どうして?名前くらい呼ばせてくれてもいいでしょ?」

「最初に言っただろ」


――城ノ内副社長。
……と、女性社員。

うわああ、なんだか嫌な予感がびんびんします……。

二人は私に気付かずに話をし始めてしまった。
城ノ内副社長の舌打ちが聞こえる。

「嫌いなんだよ。
自分の名前も、そんなくだらねぇことで俺を支配したような気になってる女も」


……やっぱり、副社長の思考ってよくわからない。
だけど。

なぜか淋しい。

誰とでも肌を重ねるくせに、誰にも心を見せないみたいでーー。
触れられない、壁があるようでーー。

「つまんないこと言ってないで、時間はもっと有効に使え」

城ノ内副社長の苛立たしげな声と。
衣擦れの音。

……って待って待って!!
なんかコトをおっぱじめようとしてない!?

いくらなんでもここで全て見聞きできるほど、私は図太くない。
< 16 / 282 >

この作品をシェア

pagetop