君の名を呼んで
(どうする、私!?)

ギリギリ痛む胃と、心臓を押さえて。


ああもう――!!


――バンッ!!


私は手にした分厚いファイルを棚に叩きつけて、大きな音をたてた。

「きゃっ」

そうそう、焦りなさいよ!
ここに人がいるんですよー!!

棚の間から出ていくと、入口に立つ副社長(と、乱れたスーツのお姉さん)を睨みつけた。


「邪魔です。場所をわきまえて下さい」

「これは失礼」

まったく動じることなく両手をあげて道を空ける城ノ内副社長。
ふ、ふてぶてしい人だな、どこまでも!!
私は資料を両腕に抱えて、なるべく彼らと目を合わせないようにすり抜けた。


泣くな。
まだ、ダメだ。
大丈夫、あと少し――。


「雪姫」


なのにこんな時に限って、副社長は私を呼び止める。
嫌がらせか、この野郎。

「……っ名前、呼ばないで下さい。急ぐ、ので」

声が震えて、言葉が散った。

それでも涙は見られたくなくて、動揺を隠したくて、私は走り出したくなる足を必死に抑えて。
そこから抜け出した。
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