君の名を呼んで
「……雪姫、俺だけなら良いけどな。あいつらの前でそんなエロい顔するなっての。
それとも、とことん最後まで綺麗に撮って貰うか?」

「ふぇ?」

ハッと後ろを振り返ったなら。


バッチリ撮影中のカメラマン。
いつの間にか照明まで良い感じに当てられて、音声さんがマイクを構えている。
そして皆の、好奇に満ちた、ニヤニヤ顔ーー。


「ギャー!!いっ、いやあああぁっ!!」


恥ずかしい!
恥ずかし過ぎる!!

「はいもうワンテイクどーぞ~」

カチンコを掲げて助監督がにんまり。

「しませんっ!!」

叫んだ私に、皇が耳元で囁いた。


「本番は、後でな」


「……っ!!」


その言葉に真っ赤になりながら、私は皇の手を引いて皆のもとへ戻って行く。
ふと、振り返って一番愛おしい人に、微笑みかけたら。


「皇、愛してる」


「知ってる。お前は一生、俺のものだからな。ーー雪姫」


皇は私を引き寄せて、またキスをした。




『俺の名前を呼ぶな』


そう言っていた頃の冷たい瞳のあなたはもう居なくて。
私の名前を呼ぶあなたは、今、傍で笑っている。

それが嬉しい。



あなたの名を呼んで。

愛を囁いて。


私はずっと、あなたのもの。





fin
< 269 / 282 >

この作品をシェア

pagetop