君の名を呼んで
私と皇は並んで座る。
いつの間にか身体の横に落ちた手に、皇の手が重なって、軽く指を絡めた。

いつかの試写室が頭をよぎる。

こんな風にいきなり手を繋がれて、凄くドキドキしたっけ。

あれから何度か試写の度に手を繋いで、そのうちデートで映画を観るときにもそうするようになったけど。

思い出すのは、いつもあの試写室。


「皇はズルい。いつも私ばっかりドキドキしてる」


そう言ったら、彼は握った手を口元へと近付けた。


「そうか?……俺だってお前に振り回されてる」


指先に口付けて、フッと笑う。
その仕草で、いつだったか車の中で、指を噛まれたことを思い出した。


……マズイ。

なんかどんどん私、皇の色仕掛けにやられてない?
結婚したって、全然慣れない。
余裕な彼が憎らしい。

「やっぱり、ズルい」

言いかけた私の口を塞ぐように、皇がキスをした。
最初は軽く、何度も。

彼にしては優しいそれに、嬉しくて、でも物足りなくて。

離れた皇の唇を追って、私からキスを返す。

彼はそれに応えて、私に深く深く口付けて。


クスリと笑みを零して、皇が色気に満ちた視線を落とした。
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