冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う




「急に決まった結婚式で、疲れているんだよな?花嫁さんは、悩む事も決める事も多いもんな。
もう少しだから、一緒に頑張ろうぜ」

気付けば紬さんの胸の中に抱きこまれた私は、その温かさに体全体を預けていた。

私と紬さん結婚が決められて以来混乱していた私の心も体も、その一番の原因である紬さんの腕の中で少しずつ鎮まっていく。

そのことによって、私の気持ちはさらに混乱の一途をたどる。

紬さんと結婚するつもりなんて全くなかったのに、まるでそれは当然の事のように両家総出で結婚式へと向けて一致団結し、特に私のおじい様と紬さんのおばあ様の喜びようは半端なものではなくて。

年齢よりも若く、心身ともに精力的な二人はそれまで以上に瞳を輝かせていた。

周囲の誰よりも結婚式に向けて動き、手配し、何もかもを思うがままに進める。

その二人の指揮の下で、私の意思などお構いなしに準備は調えられ、1か月後の結婚式に向けてのカウントダウンが続いている。

「疲れたよな。もう少し頑張ってくれ。衣装さえ決まれば、後は俺が全部引き受けるから」

私の背中を優しく撫でながら、耳元に囁いてくれる甘い言葉はまるで私を洗脳する魔法の言葉のようだ。

紬さんなんて、オンナ癖も悪そうだし、強引だし、私の意思なんてお構いなしに自分の好きになんでも進めてしまうし。

夕べは婚姻届に署名捺印させようと、私の前に座り込んで二時間余り。

私が根を上げるまであらゆる言葉で説得という名の脅迫じみた行為を続けては、私を自分の戸籍に入れようと頑張っていた。

とにかく結婚すると意気込み、熱のこもった瞳で見つめられると、私だって普通の女だ、気持ちが揺れないわけがない。



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