冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う




けれど。

それほどまでに私との結婚に一生懸命な紬さんなのに。

私が彼にとってどんな存在なのかをはっきり言ってもらえないことが、一番不安だって、わかってないのかな。

女性との付き合いは多かったようだけど、女心を学ぶ機会はなかったらしい。

悔しいけれど、女性に人気があると簡単にわかってしまうほど整った顔と、どこか俺様なその性格の中に見え隠れするふとした優しい口調に、少しずつ私の頑なな心は溶かされていった。

『俺たちの結婚を、瑠依のおじい様と俺のおばあは楽しみにしているぞ?』

私にとっては逆らおうとしても逆らうことができない人の名前を口に出されると、少しずつ気持ちは麻痺していき、結局は、婚姻届への署名捺印完了となった。

その後、紬さんはいそいそとその書類を取り上げると、にんまりと笑いながらそれをお父さんの秘書さんへ。

素早くそれを受け取った秘書さんはそれをカバンにしまうとさっさと帰っていった。

そしてそれは、今朝早く、おじい様と紬さんのおばあ様によって役所に提出され、私は『江坂瑠依』となった。

秘書さんから届けられた婚姻届の受理票を私に見せながら、『奥さん、末永くよろしくな』と呟いた紬さんはとても嬉しそうで、その感情ってどこからうまれているんだろうかと不思議に思った。

言われるがままの、完全なる政略結婚なのに、どうしてここまで前向きに受け止められるのだろうか。

謎ばかりのオトコだ。


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