冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
「私は、おじい様だけに育てられたわけじゃない。家政婦さんにも大切に、そして厳しく育てられた。両親に私を育てるだけの力がなかったから確かに仕方がなかったし、私にはどうしようもないことだけど」
次第に小さくなる声を気にかけるように、紬さんが私の顔を覗き込む。
「私が紬さんと幸せになれるのは、ここまで私を育てるために自分の時間を犠牲にしてくれた人がいたからで……。その人たち……彩也子さんのおかげで今の私の幸せはあるから」
不安げな紬さんの瞳に見守られながら、その先を続けようとした時。
部屋の片隅で充電中だったスマホが、着信を告げた。
それほど大きな音ではないけれど、紬さんと私の間に漂っていた不安定な空気を揺らすには十分で。
紬さんも私も、同じようにぴくりと体を震わせた。
それが妙におかしくて、口元が柔らかく動いた。
「私のスマホだ。……私のために犠牲になってくれた人からの電話」
彼女が大好きなクラシック。
オルゴールのメロディは、彼女からの電話だと教えてくれる。