冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
「瑠依はお父さんの娘であると同時に、俺の嫁でもあるんだ。
存分に俺に頼っていいから、それを忘れるな。何があっても、俺が瑠依を守ってやる」
「そ、そんなこと……こんな時に、い、言わなくてもいいじゃない」
「あ? いつ言ったっていいだろ?
ていうか、いつでも俺は瑠依のことを幸せにしようと考えてるけど?」
「……っそんな、……わ、私だって……紬さんを……」
照れてしまうような言葉を落とされて、何度も言葉がつまる。
俯いていた視線を紬さんに向けると、前を見ながら運転を続ける顔。
やはり、私の父さんが事故にあったと聞いたせいだろうか、彼の顔にも緊張感が感じられる。
それでも、その緊張感を隠すような強い声音で私を守ると言ってくれた。
出会ってから今まで、決して長い時間を過ごしたとは言えないけれど、彼が私を守ると言えば本当に守ってくれるだろうと、無条件に信じられる。
「江坂瑠依」となり、紬さんの妻として歩み始めたせいかもしれない。
その安心感が、私の気持ちを、落ち着かせてくれる。
紬さんと結婚したことによる効能は、予想以上だ。
父さんの容体が気にならない訳ではないし、早く病院に着いて欲しいと気持ちは急く。
けれど、紬さんと結婚できてよかったと、この場にそぐわない優しい息を吐いた途端。
「私だって紬さんを、なに? その続き、言ってくれないのか?」
相変わらず前を見たまま、気のせいかスピードを上げた紬さんのからかうような声が響いた。