冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う





ちゃんとした言葉になったのかどうかもわからないけれど、久しぶりに声にしたその言葉に、身体は震える。

「大丈夫だ。命に関わるものではないって彩也子さんが言っていただろ?」

「うん、そうなんだけど、まだ意識が戻らないって」

「手術が終わったばかりで、まだ麻酔が効いているんだ。時間が経てば目を覚ますさ」

「だけど……もしもこのまま父さんが」

「大丈夫だ。瑠依のお父さんはちゃんと生きてる」

紬さんの大きな声が車内に響く。

いつになく厳しく鋭い声が、私の緊張感を更に強くし、きゅっと唇を結んだ。

「噛むなよ。唇に傷がついたら、結婚式の写真に一生残るぞ」

運転席からの声に、はっとし、かみしめていた唇を慌てて緩めた。

同時に、指先で唇をそっと撫で、何ともないことを確かめた。

そしてほっとしながら、父さんのことよりも自分の結婚式のことを気にしている自分に気付き落ち込んでしまう。

私って、冷たい娘だな。

父さんが怪我をして手術した直後だというのに、自分の結婚式のことを考えるなんて。

「何落ち込んでるんだよ。命に別条がないってわかっているから自分のことも考えられるってだけのことだろ?
自分を責める必要もないし、瑠依のせいでこうなったわけじゃないんだから無駄に落ち込むな」

落ち込む私の心を察した紬さんの声に、ほんの少し気持ちは浮上するけれど、父さんが事故にあったという知らせに動揺した心は隠せない。





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