冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う



その現実に慣れている女性、たとえば私のように、社長の孫としてその責任の重大さを幼い頃から見てきたような。

そんな女性でなければ、たとえ愛し合って結婚したとしてもお互いに不幸になると、茅人さんのご両親は考えていたらしい。

日里さん自身を否定したわけでもなく、日里さんが食堂を営むご両親の娘さんであることを嫌悪したわけでもない。

ただ、日里さんの将来を考えた場合、茅人さんと結婚することが幸せにつながるとは思えず、いつか別れる時がくると、そう言って結婚には反対していた。

けれど、茅人さんと日里さんのお互いを愛する気持ちは周囲が思うよりも強く、寄り添い合っていた。

その中で持ち込まれた茅人さんと私のお見合い話。

茅人さんは、自分と日里さんの関係を知っている両親がお見合いの話を進めている様子に激怒し、日里さんを必死で説得し、その勢いのまま入籍した。

その時の茅人さんは、背負うべき社長という未来を捨ててもいいとまで思ったらしいけれど。

『私が茅人を支えられるだけの強さを身につければいいんでしょ?』

日里さんの、覚悟を決めた一言によって、茅人さんは社長という重荷も、日里さんという愛しい存在も両方手に入れることを決めた。


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