冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う



「彩也子さん……? 父さんで、いいの?」

探るように、聞いてみる。

彩也子さんには、父さんよりももっと素敵な男性が側にいてくれそうに思える。

だけど、父さんの隣にいる彩也子さんからは今まで見たことがないほどの優しい雰囲気が漂っていて、まるで少女のように口元が膨らんでいる。

だから、やっぱり、もう、仕方がないのかな。

お父さんでいいのかな、なんて思っていると。

「瑠依ちゃんには申し訳ないけど、お父さんのことは私に任せて欲しいわ。
前に言ったわよね、私は自分の人生を犠牲にして生きているわけじゃないって。
犠牲どころか、瑠依ちゃんや、瑠依ちゃんのお父さんが私を必要としてくれたから……私は毎日を笑って過ごしてこられたの。
だけどこれからは、新婚同士お互いの時間を大切にしましょうね」

明らかに「私達の邪魔はしないで」と牽制するかのような言葉を向けられた。

彩也子さんの言葉に、父さんは目を大きく見開き何かを言おうとするけれど、うまく言えないのか「うー」だとか「お、おー」だとかの音だけが病室に響いた。

ほんの少し前、紬さんに鋭い視線と言葉を投げつけていた人だとは思えない。

彩也子さんから何かを期待する笑顔を向けられても、そわそわとして苦笑いしつつ流しているし。

彩也子さんには強気に出られないんだな。



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