冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
ただでさえ白無垢を身にまとっている私は動きが緩慢で、紬さんの力には逆らえない。
こぶし三個分ほど空けていた距離が一気に詰まり、私の体は紬さんの胸に抱かれてしまった。
「あ、角隠し、取れてない?」
「大丈夫。っていうより、瑠依の綺麗な顔をはっきりと見せる為に取ってもいいんじゃないか?」
「だ、だめ、この角隠しお気に入りなの」
かつらに巻かれている角隠しを取り払おうとする紬さんの手を払いのけ、両手で角隠しを抑えて守った。
衣装にはなんのこだわりもなく、紬さんの好みを全て受け入れたけれど、髪形を決める際に幾つか並べられた角隠しを目にした時、私の中のスイッチがカチリと音を立てた。
綿帽子だと顔を覆いつくされそうに思えたこともあって選んだ角隠し。
これまで遠目でしか見たことがなかったせいか、目の前に並べられたその表面に浮かび上がっている模様を見た時、衝撃を受けた。
単なる真っ白な布だと思っていたそれは、鶴の刺繍が全体にほどこされた繊細な物。
光りの加減による微妙なニュアンスは、私の心をわしづかみにするには十分すぎるほどだった。
あれやこれや私の髪を触りながらウェディングドレスに合う髪形を考えていた美容師さんに
『この角隠しにします』
と言って決めた。