冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う

「紬さん……話なら、別の場所でゆっくりと聞くから。ね?」

「……わかった。だけど、これだけは言っておく」

「え……何?何も言わなくていいから、さっさとここを出ようよ。ほら、みんな見てるし」

嫌な予感がした私は、抱きしめられたまま紬さんの腰に手を回し、ロビーを出ようと歩を進めた。

けれどそれは、私が紬さんに抱きついたともとれる状態で、ふたりの密着度はかなりのものとなった。

それに気付いた時にはもう遅かったようで、紬さんは私をぎゅっと抱きしめ、大きな声をあげた。

「俺は瑠依と結婚する。どこにも逃がさない」

「な、そんなこと、私は受け入れてない……」

「うるさい。俺は瑠依と結婚する。ようやく手に入れることができたんだ離すわけないだろ」

紬さんは、はっきりとそう宣言した。

まるで周囲にいる人たちに言い聞かせるように一語一語はっきりと。

その言葉にどう反論すればいいんだろうかと戸惑う。



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