やさしい手のひら・後編
自宅に戻り、私は持っていた鞄を放り投げ、ベットに寝転んだ

「健太が…結婚…」

さっきの記事を思い出すだけで胸が張り裂けそうになる

私が掴めなかったものをいとも簡単に掴んでしまう

そんな佐原樹里が羨ましい

新くんを大切していこうって決めたのに、また健太が蘇る

自分の揺れ動く気持ちに腹が立つ

そして涙は止まることなく溢れてる

私はバックを拾い、中から携帯を出し、健太の名前を捜し出していた

いつになっても消せない健太の携帯番号とアドレス

声が聞きたい

親指が発信ボタンを押す手前で止まっている

押してしまえば声が聞ける。電話の向こうには健太がいる

携帯を持っている手が小刻みに震えている

そして躊躇いながらも私はボタンを押していた

携帯からは呼び出しの音だけが鳴り響いていた



< 153 / 199 >

この作品をシェア

pagetop