夏恋
浴室から出た裕也はバスタオルでまだ濡れた髪を掻きながら真っ直ぐ二階にある自室へ向かった。寂しさよりも何故か怒りの方が大きかった。…なんで彩ちゃんが? なんで僕だけ知らされなかった?
部屋に入るとその怒りを忘れる様に裕也はサッカー雑誌をまくった。文字も写真も目に入らない。既に読み切ってある雑誌だし、ただ何かしていないと落ち着かなかった。「…コンコン」
突然裕也の部屋の窓ガラスが音を立てる。裕也は迷った。今日はどうしょう…。 裕也と彩の家は隣接しているため、お互いの部屋は窓ガラスを挟んで30センチくらいの隙間しかない。夜になるとどちらかが窓ガラスを叩き、気が済むまで他愛もない会話をする…これが二人の日常の習慣になっていた。
「コンコン…」
裕也はまだ雑誌を見たまま動けずにいた。どうせ今夜は引っ越しのことを言うに違いない。そしたら僕はなんて返せばいいんだ? もしかしたら泣いちゃうかもしれない。居留守を使うにも部屋の電気が点いてるから無理だろう…。
「コンコン…」
音は鳴り続けた。裕也は迷った挙げ句、雑誌を片手に窓を開けた。
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