キスはワインセラーに隠れて


「まあそうなんだけど。実はそれが嘘で、もう潰れそうになってるから、金になりそうな備品数えさせられてんのかなーって」

「……まさか」


本田の言うことを笑い飛ばしつつ、そんな風に言われると気になってしまうのも確かだった。

お客さんはいつもいっぱいだし、オーナーは嘘つくようなひとじゃないと思うけど……


「ま、なるようになるっしょ! つか環、腹減らね? 帰りにラーメンでも――」

「……あ、ゴメン。俺、今日はオーナーに家まで送ってもらう日だから」


両手を合わせて私が謝ると、本田は残念そうに苦笑して頭を掻いた。


「あー、そっか。遅番の時はそうなんだっけ。でもなんで環だけなんだ? 俺も疲れてるから歩きたくねーのに」

「……そ、それはほら。俺、こんなナリだから、女と間違われて何かあったら大変って、オーナーが心配してくれて」

「なるほどね……納得」


納得……なんだやっぱり。

まあ、今さら本田には疑われないだろうから、別にいいけどね。


「とにかく、この脚立片づけて、オーナーのとこ行こっか」

「おお」


今日は久しぶりの遅番だったから、早く帰って寝てしまいたい。

私はふわぁ、とひとつ欠伸をして、後ろ向きに脚立を降りようとした、のだけど。


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