キスはワインセラーに隠れて


全く悪びれることのない三人に、オーナーは少したじろいだ様子で腕時計を確認すると言った。


「……もう時間がないから、お前らの話はあとで聞く。とにかく、今日もよろしく頼む」


その言葉を合図に散り散りになっていくスタッフたち。

例の三人も何食わぬ顔で仕事に入ってしまい、今のはどういうことなのかと聞くタイミングを失ってしまった。

今日は、みんなに挨拶して気持ちよく仕事をしようと思ってたのに……こんなんじゃ、余計にモヤモヤしてきちゃうよ。

そうは思っても、刻々と迫る開店時間に向け、ぼんやりとしている暇なんてない。

私はふるふると首を横に振って雑念を追い払うと、頭を仕事モードへと切り替えた。



その日もいつものことながら忙しく、ホールと厨房を行ったり来たりしているうちに、三人のことはすっぽり頭から抜け落ちていた。

そのまま仕事を終え、更衣室へ入ると、着替えの真っ最中で上半身裸の本田がいた。


「おー。お疲れ、環」

「うん、お疲れ」


この数カ月の間で、本田の着替えくらいじゃ動じなくなってきたよなーなんて、関係のないことを思いながら自分のロッカーを開ける。

すると、本田の方から話を切り出してきた。


「……俺さ、休憩のとき、オーナーと話してきた」


ぴくっと耳が反応して、重要なことを思い出す。


オーナー……そうだ。

あのとき、本田もなぜか“辞める”って言ってて……


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