キスはワインセラーに隠れて
そのことをひとり再確認していると、目の前で本田が制服の白いシャツのボタンを外し始めていたので慌てて更衣室を出た私。
「こういうのも、慣れなきゃだよね……」
少しだけ熱くなってしまった頬を両手で挟んで呟くと、私は家に帰るべくお店の裏口へと向かった。
今日は遅番じゃなくランチタイムからの勤務だったから、自転車を走らせるのは午後九時過ぎの街。
レストランの前の坂を上ると、お店のたくさん並んだ通りに出る。
時間が時間なだけにもう閉店を済ませている店も多くあるけど、私のお目当ては深夜まで営業している本屋さんだ。
外に自転車を止めて店内に入ると、すぐに目指したのはグルメ・料理本のコーナー。
最近仕事のある日は帰りにここに寄って、毎日フランス料理に関する知識を少しずつ増やしているのだ。
つまり、立ち読みするってこと。
本を買うお金がないわけじゃないけど、買ってしまえばそれで満足して、家でちゃんと読まなそうな気がしたから、こんな勉強方式を取ることにした私。
今日もいつもの場所に向かって足を進めていたら、見覚えのある後姿が目に入って私はぴたりと動きを止めた。
……あの、特徴的なツーブロックヘアはもしかして。