キスはワインセラーに隠れて


「え?」

オーナーは、口をあんぐりと開けて固まった。


「ウエイトレスじゃなくて、ウエイター。それなら、変なストーカー被害にだって遭いませんし」

「いや、でも」

「お願いします! 実は他のお店の面接はことごとく落ちてしまって、ここが最後なんです!」


それは嘘じゃなかった。

大学で、経済に興味なんてないのになんとなく経済学部にいた私。

もちろん成績は伸び悩み、サークルにも属してなかった私の一番の楽しみと言えば居酒屋でのバイトだった。

そこで接客の楽しさを知り、就職先もそういう飲食店がいいな、と思っていたのだけど。


正社員のホールスタッフを募集しているお店ってなかなかなくて、やっと見つけて電話をかけてみても面接であえなく撃沈。

それを何度か繰り返して、ここが最後の希望だったんだ。



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