キスはワインセラーに隠れて




「なんか、スースーする……」


翌日、約束通りの格好で街を歩いていると、スカートの間を通り抜ける風がなんだかくすぐったくて、落ち着かなかった。

だいたい、“女子だった頃”にだってスカートなんてほとんど穿かなかったのだ。

ズボンのが楽だし、足開けるし。……あーあ、ホント女子力ないな、私。


そんなことを考えながら、いつもは自転車で通る店までの坂道を徒歩で下っていくと、車道まで出てキョロキョロと落ち着かない黒髪ツンツン頭が見えた。

あれは紛れもなく、本田。

遠くからでもすぐに気付いた私に反して、本田は全然こちらに気付いていないようだった。

……首から上はいつもの私なんだけどな。



「おーい!」



手を振って駆け寄っていくと、「どちらさま?」みたいな顔した本田がこっちをじいっと見つめる。

いや、さすがにそれはわざとらしいって。

私は笑って、本田の元まで来るとずいっと顔を近づけた。


「そんなに美人?」

「お、お前――」


ずざざ、と後ずさりした本田が、少し離れた場所から疑いの眼差しを向けてきた。


「……本当に環か?」

「おおげさだよ。服がいつもと違うだけじゃん」

「や、そーなんだけど……」


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