キスはワインセラーに隠れて


「環ー。全然笑ってないし」

「ご、ごめん!」

「ほら、謝ってる暇なんかないって。次来るぞ、次」


ええい、もうどうにでもなれだ!

たとえ今が“女”の環でも、相手が本田なら“男友達”なわけだし。

もっと気楽に写ればいいんだ、きっと。


そう思ったら何かが吹っ切れたように楽しくなってきて、カシャ、と鳴るシャッター音ごとに色んな顔をつくった。

あーだこーだと言いながら二人で書いたらくがきも、完成してみるとなかなか可愛い出来。

それをハサミで半分こにしてお互いお財布にしまうと、私たちはゲーセンを後にした。




「――あー、楽しかった。やっぱかなえちゃんのこと振って正解」




カタン、とテーブルの上にトレーを置いた本田はそう言ってジュースのストローを口にくわえた。

私たちはお腹が空いたからとやってきたファストフード店で、遅めのお昼ごはんを取ることにしたのだ。


「……なんで?」


そう聞いてから、カサリとハンバーガーの包み紙を開いた私は、それにかぶりつく。

んー、美味しい。フランス料理もいいけど、たまにはこういうのもいいよね。


「やっぱ、気ぃ遣う相手といるのは疲れる。彼女と遊んだのは一回きりだけど、相手が何したら喜ぶかって考えすぎて、自分の素が全然出せなかったんだ」

「じぶんの“素”かぁ……」


確かに、付き合う相手に合わせて色々気を遣ったり我慢するのは、何か違う気がする。

最初は頑張れても、そのうち無理が出てきて、そしたらきっと、相手にだって伝わって……


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