キスはワインセラーに隠れて


誰もいない更衣室で濡れた髪と顔を拭き、新しいシャツに袖を通していると部屋の扉がノックされた。

慌ててボタンを掛けていると、その向こうから声が聞こえた。


「庄野、俺だ。……着替えは済んだか?」

「あ、はい……今!」


第二ボタンから下まで閉め終わったところで、須賀さんを待たせちゃ悪いと思ってこちらから扉を開けた。

そこに立っていた須賀さんは、私の姿を見るなりぱっと目を逸らす。

……どうしたんだろう?


「お前……ちゃんとベストまで着てから開けろ。あと、ボタン……掛け違えてるぞ」

「え?」


ど、どこを?

下を向いてボタンの位置をたどると、ちょうど胸のあたりのボタンがひとつずれている。そして、その隙間から色気のないワイヤーなしブラがちょっとだけ覗いていた。


「わぁ! すいません、お見苦しいものを……!」


くるりと回れ右をして、ボタンの位置を直す。

恥ずかしい……! でも、見られたのが私の正体を知る須賀さんでよかったのかも。

もしかして、だから助けに来てくれたのかな。他の人じゃ、着替えとかそういうことに気を遣えないから。


「……別に見苦しくはない。俺は一度お前の全部を見ているが、綺麗だと思ったしな」

「……っ!」


……心臓が飛び出るかと思った。

急にどうしちゃったんだろ、須賀さん……

激しく波打つ心臓をなだめようと必死になりながら、彼の表情を確認しようと後ろを振り向くと。


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