光のもとでⅡ
 ふ、と心が緩み少しの余裕が生まれた。すると、
「何笑ってるんですかっ!? 足、大丈夫なんですかっ!? 手はっ!? 腕はっ!?」
 谷崎さんに詰め寄られ、
「あちこち痛いは痛いのだけど、どうかな……? 足が無事だといいのだけど……」
 階段からステージ裏までは飛翔くんが運んでくれたので、まだ足の状態は確認していない。
 壁に手を添えながら立ち上がると、右足の膝と脛、足首に鋭い痛みを感じた。逆に、落ちるときに負担をかけてしまった右手右半身はさほど痛くない。
 やっぱり、どんな体勢であっても重力に勝るものはないということだろうか。
 試しに腕を上げてホールドの状態を作ってみる。
 うん、大丈夫。
 次はゆっくりとワルツのステップを踏んでみた。
 これは痛い……。でも、我慢すれば踊れないこともない。
 でも、その「大丈夫」は「一位を競えるレベル」での「大丈夫」なのだろうか。
 腕時計を見ると、タイムリミットまであと十五分。
 お昼のお薬は飲んだけれど、それだけじゃこの痛みは引かないだろう。
 この手の炎症系なら普通の鎮痛剤、NSAIDsのほうが効きはいいはず。
 幸い、ピルケースの中にはロキソニンとボルタレンも入っている。けれど、即効性を求めるならロキソニンの選択がベスト。
 私はピルケースから薬を取り出し残っていたミネラルウォーターですぐさま飲み下した。
 でも、薬を飲むには水の分量が少なすぎる。それはあとで対処するとして――。
 ポケットから携帯を取り出し佐野くんにかける。
「あ、佐野くん? お願いがあるのだけど、私のかばんを持って半月ステージ裏まで来てもらえませんか? ステージに向かって右側にいます」
『は? 何? かばん?』
「はい、かばんです。それから、テーピングなど持っていないでしょうか。持っていたらぜひとも持ってきていただきたいのですが……」
『なんで敬語? しかも、かばんとテーピングって何?』
「敬語なのはスルーしていただいて、かばんとテーピングが必要な理由はのちほどお話しいたしますので、今はできるだけ早くにお越しください。では――」
 電話を切って一息つくと、目の前で呆れた顔をしている飛翔くんとハラハラしている谷崎さんに向き直った。
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