光のもとでⅡ
 ステージ裏に着くまで何も話さなかったけれど、扉を閉じた途端に飛翔くんが口火を切った。
「あんたのこと突き落としたの、谷崎じゃないから」
「え……?」
「こいつ、運悪く居合わせただけ」
「そう、なの……?」
 谷崎さんの顔をじっと見ると、
「……ワルツが始まる前に謝りたくて――」
 あぁ、なんとなく話が読めた。
 朝、目が合ったのに思い切り逸らされたのはばつが悪くてか何かで、ワルツが始まる前に謝りたかったのだけど、私がひとりでいるタイミングがなさすぎて、謝るに謝れなかったのだ。そして、ようやくひとりになった私の近くにいてタイミングをうかがっていたのだろう。そこでこの事態……。
「あの、ひとつ知りたいのだけど、私、突き落とされたの?」
「「は?」」
 ふたりはひどく呆れた様子で私を見下ろしてくる。
「や、だって、階段を下りるつもりで前を向いていたから、誰かに押されたのかは定かじゃなくてっ」
「御園生先輩バカなんですかっ!? あんなところで人とぶつかったら、故意じゃなければぶつかったことを謝るし、ぶつかった相手が階段から落ちれば駆け寄るでしょうっ!?」
「……そっか。そうだよね……」
 若干呆気に取られてしまったのだけど、今の言葉で谷崎さんが真っ直ぐな人だということがよくわかった。
 普通の人は、ぶつかった人が階段から落ちれば駆け寄るのだ。でも、中には自分が突き落としてしまったことが怖くなって駆け寄れない――逃げ出す人だっているはずで、でも、谷崎さんは間違いなく前者。とても真摯な人なのだ。
 今まで谷崎さんのキツイ面しか見たことがなかっただけに、会話から得た谷崎さん情報を嬉しく思う。
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