光のもとでⅡ
 昇さんは必要最低限しか足に触れず、診察を終わらせた。
「明日病院入ってレントゲンな」
「えっ?」
 翠は気づいていないが、翠の反応にみんなが驚いたくらいだ。
 ここまでひどい怪我なら素人でもレントゲンを撮ったほうがいいことくらい察する。
 病院慣れしてるくせに意外と疎い。
 そんな翠を昇さんが宥めると、翠は肩を落として従う旨「はい」を口にした。
「病院に連絡入れておくから救急センターの方へ行きな。そしたらすぐレントゲンに回してもらえるようにお願いしておく」
「ありがとうございます……」
 肩を落とした翠を取り残して話だけは先へ進む。
 兄さんが鎮痛剤の選択の件を話題に挙げれば、翠の胃腸は父さんの管轄だから、などという話になり、昇さんはすかさず父さんへ連絡を入れていた。
 リビングの片隅に佇む碧さんと零樹さんは心配の面持ちで翠の足を見ている。その斜め前にいる御園生さんと唯さんも変わらない風体だ。
 やっぱり謝るべき、だよな……。
 御園生家が集まる方へ身体を向け、
「すみませんでした」
 頭を下げると、
「ツカサ……?」
 翠がソファ越しに振り返る。
「今回のことは自分に要因があります」
「そんなっ、ツカサが謝ることじゃないって話したでしょうっ!?」
「それでも、間接的に絡んでいることに変わりはない」
 再度、碧さんたちへ向けて頭を下げる。と、
「事の経緯は川岸先生から聞いているわ。でも、私たちも翠葉と同じ意見よ。司くんが悪いとは思わない。それに、翠葉はあなたに関わることを、藤宮に関わることを選んだの。だからといって何に巻き込まれても仕方がない、と言うつもりはないけれど、嫉妬や反感を買うことから逃れられないのは事実よ。でも、どんな感情を抱かれたとしても、今回のような怪我を防ぐことはできるはず」
 防げる……?
 こんな、一個人の感情から引き起こされた事態をどうしたら――。
 碧さんはさもそれが簡単のことのように話を続ける。
「そうでしょう? 翠葉も司くんも、今回のことで思うところがあるのなら、今後に生かしなさい。同じことを繰り返さないように、同じ後悔をしないように。ふたりで話し合うもよし。人に相談するもよし。肝心なのは、このままでいないこと」
 安易に聞き流すことのできない言葉たち。
 気づけば俺は、呼吸することも忘れて碧さんの言葉に耳を傾けていた。
 さすがは静さんが想い続けた人と言うべきなのか、こんな人だからこそ静さんが好きになったのか――違う。そんなことはどうでもよくて……。
 ひたすらに「回避方法」に考えをめぐらせていると、
「考えてみて? 事前に防ぐことができれば翠葉は傷つかずに済むし、罰を受ける人も生まれないのよ」
 碧さんはにこりと笑い、「ご飯にしましょう」とその場の空気を一掃した。
 未だ答えにたどり着けない俺をよそに、翠は昇さんの手当てを受けている。
 足に新しい湿布薬を貼られ、
「今日は風呂に入んのはやめとけ。汗をかいたならタオルで拭くだけにしときな。明日以降も腫れが落ち着くまではシャワーな。見たところ足首は問題ないみたいだから、安静にしてるならテーピングまではしなくてもいい。そのほうが剥がすときも楽だしな。こんなもんか?」
 昇さんが顔を上げると同時、
「なんだ、右手もやったのか?」
 翠には少し大きいパーカで隠れていた手首を取られ、翠は歯切れ悪く答える。
「……はい。でも、そんなに痛くはなくて、ペットボトルのふたを開けるときに痛みが走ったくらい。捻る動作がだめみたいです」
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