光のもとでⅡ
「じゃないと、いつまで経っても前には進めない気がするから」
 決意を含む響きの言葉に、どう反応したらいいのかがわからなかった。
 把握できる感情としては、気持ちが通じたとき並みの衝撃――幸福感。
 それと、どうしていいかわからないほどの愛しさがこみ上げてくる。
 やばい、これ、どうしたらいいんだ……?
 これ以上腕に力をこめたら「痛い」と言われてしまいそうだし、それ以上に気持ちを伝える術なんて――。
 そこに考えが至ったとき、ひとつの行為しか頭に浮かばなかった。
 バカの一つ覚え――そう思いながら、見ないでほしいと言われたその顔に、血色の悪い唇に、自分のそれを重ねていた。
「もう……顔、見ないでってお願いしたのに……」
 抗議され、照れ隠しのように顔を背けられるも、小さい頭はまだ俺の胸に預けられたまま。
 顔が見たくてキスをしたわけじゃない。キスせずにはいられなかったからだ。
 こういうのも、言葉にしない限りは伝わらないのだろう。
 そうとわかっていても言うに言えない……。
 けれど、翠が言葉を尽くしてくれるたび、言葉の大切さを感じれば感じるほどに、ただ一点が気になりどうしようもないほど色濃く影を落とす。
 俺が気にしているだけで翠はそんなに気にしてはいないかもしれない。それでも――。
「翠、こっち見ずに聞いて」
「どうしようかな……今、顔見られたし」
 仕返し染みた応答に、ぎゅっと力をこめて抱きしめる。
「好きだ……」
 口にした途端、感じたことのない感覚が自身を襲う。
 ずっと心の中で燻っていた何かが昇華したような、そんな感覚。
 どうして……? こんな、なんてことのない一言なのに。
 気持ちすべてを伝えられた気はしない。それでも、心の中で行き場をなくしていた想いが昇華して、心が軽くなった気がした。
 気づけばものすごくびっくりした顔に真下から見上げられていて、
「今、好きって……」
「言った」
 その大きな目に映る自分にはっとして顔を背ける。
 けど、視線が外れる気配はない。
「そんなに見るな」
 言ったところで視線が外れることはなく、
「嬉しい……すごく、嬉しい。初めて……初めて言ってくれたよね?」
 やっぱり気づいてたか……。
「悪い、今まで言えなくて……」
 翠は緩く頭を振る。そして、
「どうして、って……訊いてもいい?」
 理由は明確だ。でも、その理由を解消できたわけでもないのに「好き」という言葉を使ったことを、「安易」だと思われはしないだろうか。
「あのっ、言いたくなければいいのっ」
 気を遣って言ってくれたのだろう。でも、ここで隠し立てしたら意味がない。
 若干の不安を抱きながら、
「『好き』じゃ足りない気がしてた」
 できるだけ簡潔に話したつもりだけど、翠は「え?」といった顔をしている。
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