光のもとでⅡ
「こちら御園生翠葉さん」
「知ってる」
「今年の夏に天川ミュージックスクールに入会して、今は僕の生徒さん。もう少し早くに引き合わせたいとは思っていたんだけど、何分話す時間がなくてね……」
 先生が苦笑を見せると、
「なんで……レッスンのときにそれとなく話せばよかっただろ?」
「いや、彼女受験生だから。レッスン時間は一分たりとも無駄にできないんだ」
「は……? あれ? おまえ、いくつ? 同い年じゃねーの?」
 これはまた誤解を招きそうな会話の流れだ。
「えぇと……十八、です」
「あ゛? 俺の一個下? えっ、俺、年下に負けたのっ!?」
 倉敷くんはコロコロと表情を変え、さらには真顔になってこちらを向いた。
「ってことは、今、受験直前、だよな? ……それであの演奏? えっ、おまえ、落ちるよ? 弓弦、何してんだよ。全然間に合ってねーじゃんかっ。そもそも、夏にピアノ教室入会って、おまえ、合格する気ないだろっ!?」
 なんかグサグサ胸に刺さる……。
 倉敷くんが言うことは正しいけれど、誤解されている部分もあるのだから、ここまで傷つく必要はないはずなのに……。
「慧くん、ちょっと言葉選ぼうか……。それに、御園生さんは今高校二年生だから」
「はっ? 計算合わねーだろ。十八は高三!」
 はい、一般的にはそれが正解です……。
 ここまで大っぴらに話されていたら隠す気も失せるし、こんな人が相手なら隠す必要すら感じない。
 私は小さく息を吸い込み会話に混ざることにした。
「私、病欠で留年してるんです。だから、今は一年遅れて高校二年生」
 OK?
 目で尋ねると、
「ビョウケツ?」
 あ……思いっきりカタカナだ。
「病気で欠席」
 言い直すと、ソファで体育座りしていた倉敷くんが転げ落ちる勢いで床に正座した。
「悪いっ。知らないとはいえ無神経なこと言った」
 きっちり土下座されて焦る。
「やっ、そこまでしてくれなくていいですっ。今、すごく充実した高校生活送っているから、むしろ気を遣わないでくださいっ」
 思わずソファから立ち上がりそうになって、先生にガッシリと肩を掴まれ牽制された。
「御園生さん、さっきの二の舞はやめときましょうね……」
「あ……スミマセン」
「……おまえ、さっき何やらかしたんだよ」
「えっと……かくかくしかじか?」
 そんな会話に笑いが起こり、なんだかその場の空気が一気に和んだのを感じた。
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