光のもとでⅡ
 人が違うだけ――いつも母さんに言われることを翠に言われただけだ。
 心を落ち着けようと苦心するものの、口にできた言葉は「美味しい」の一言。
 翠の視線に耐えかねて顔を逸らす。
 ……どうしたらいい? どうしたら翠の唇を、首筋を意識せずに済む?
 翠は俺がこんなことを考えているとは露ほども思っていないだろう。今は隣で本日二回目のシャーベットを嬉しそうに口へ運んでいる。
 俺はそんな翠を盗み見ながら、このあとはどうするべきか、と悶々と考えていた。
 翠を人目にさらしたくない反面、このままふたりだけの空間にいたら、自分を抑えきれなくなりそうだ。
 一度目を閉じ、当初の目的を思い出す。今日は翠を人目にさらす日――。
 それでいかなる面倒ごとが起ころうと、それらを払い除け護るのが翠をエスコートする人間の役目。
 まさか、こんなにも男である自分を意識することになるとは思いもしなかった。そして、そんな感情を抱くと、その感情に囚われたままになる、と身を持って知る羽目になる。
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